春風の中で
『春風の中で』
-出会い-
前回の続き。
少年は、少女とすれ違うだけで心が満たされるような優しい気持ちになります。でも、すれ違うとその後は1日中、とても切ない気持ちになります。
少年は、少女に自分のこの切ない想いを伝えたいと、思いました。
来る日も来る日も少女のことで頭がいっぱいです。少年は、どうやって少女に伝えようか、何て言えばいいのか、頭の中はもうどうしようもないくらい一杯になります。
そしてその日はやってきました。
少年は、いつもの通学路に立ち、少女が来るのを待ちます。
少年は深く深呼吸をしました。何度も、何度も深呼吸を繰り返します。
しかし少年の胸の鼓動は治まるどころか、ますます早く、そして強くなっていきます。
「口から心臓が飛び出しそう」という感覚を、生まれて初めて知りました。
少女とすれ違う時間は、刻一刻と迫ってきます。今日もあの日と同じような温かい春風が吹いています。
少年の胸の鼓動はもう張り裂けそうです。
力が入る両手には、すでにびっしょりとした汗がにじんでいます。何とか立っている両足は震えが止まりません。喉はカラカラで、もう頭の中は真っ白です。
そして、いよいよ向かい側から少女がやってきました。
少年は、高鳴る胸の鼓動を堪えつつ、精一杯の声を振り絞りました。
「あのっ!」
つづく
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